第17話 代理母出産の流れ、6つのステージ

第17話 代理母出産の流れ、6つのステージ


さて前回の更新からずいぶん時間が経ってしまったのだが、”第1章 旅の準備は知識と情報の荷造りから” の締めくくりとして、また、次章に向けてのガイドとして、今日はサロガシーの旅の全体像をつかむべく、上記目次にあげた6つのステージの概要を、ご紹介したいと思う。
この6つのステージである期間 – エージェンシーとの同意書ににサインしてから子どもを授かるまで – の期間は、人によりかなり開きがあるらしい。第12話の中でも紹介した Surrogacy Adviser というサイトでは、各エージェンシーの平均期間が掲載されているが、この6つのステージにかかる期間の平均(20社)は約18.9ヶ月(2016年5月現在)のようだ。

この6つのステージは僕らのサロガシーの旅を元に書かれているので、依頼するエージェンシーやクリニックなどによっては違うこともある点はあらかじめご了承いただきたい。

さてそれでは、それぞれのステージを見ていこう。

 


1. IVFクリニック選びと代理母とのマッチング

概要 ー 僕らの場合、エージェンシーとの同意書を交わしてから、代理母とのマッチングが終わるまで約8ヶ月かかっているが、早い人だと2ヶ月ほどだそうだ。この期間、IPは担当のコーディネーター(Program Coordinator) に電話やスカイプで相談を受けながら、IVFクリニックを決めたり、必要であれば卵子提供者を選び、そして遺言書の作成などもこの時期に行っていく。

IVFクリニック選び ー サロガシーエージェンシーはIVFクリニックを選ぶ際のアドバイスはしてくれるが、選択はしてくれない。IP自身が直接クリニックに連絡をとり、コンサルテーションを受け、その中から選ぶことになる。ここで選ぶIVFクリニックは、代理母が妊娠10週目になり、彼女の地元のOB/GYN(注¹)に移るまでお世話になることになる。

卵子提供者選び ー 卵子提供者には匿名の場合(anonymous)と、非匿名、つまりその提供者の素性を公開する卵子提供(known egg donation)の場合とある。僕らが利用したエージェンシーでは非匿名の卵子提供を推奨していた。その理由についてはまた別の機会にお伝えしたいと思う。

代理母とのマッチング ー 代理母とのマッチングは、ひと昔前の『お見合い』のようなものだ。僕らが選んだエージェンシーでは、マッチングを専門とするチームがあり、かれらがその『仲人』的な役割を担う。その仲人を介し、IPと代理母の書面でのプロフィールをお互いに見て、双方が会ってみたいとなれば、スカイプなどで話をする場を設ける。一回で決まる場合もあれば、何回も行う場合もあるそうだ。

 


2. 各種契約書の交渉と合意、メディカルスクリーニング

概要 ー 代理母とのマッチングが成立すると、法的な契約書(同意書)の作成とIVFクリニックによるスクリーニング(検査)へと進む。このステージでは、代理母・卵子提供者の各人とIPは契約書の内容について、各代理人を通じ、最終的な合意に向け交渉を行う。それとほぼ同時進行で、IVFクリニックでのスクリーニングを行っていくこととなる。また、代理母へのサポートもこのスクリーニングの時期から出産・産後まで、専任の社会福祉士がサポートしていく。

代理母との関係づくり ー この時期、とても大事だと言われていたのが、代理母と定期的に連絡をとることだった。それは電話やスカイプで行われるが、それぞれの関係を深くし、お互いに強く信頼を築くことを目的とするようアドバイスを受けていた。ただ、契約に関する交渉は全て代理人を通して行われるため、法的な契約に関する話は一切しないよう言われていた。

交渉と合意 ー IP⇄代理母、またIP⇄卵子提供者の間で交わされる交渉の期間は、代理人から送られてくる膨大な書類に目を通し、必要があれば修正の希望を代理人に申し入れ、相手の代理人を通して同意してもらえるかを尋ねてもらう。もちろん相手側からの修正の希望がくるかもしれない。

メディカルスクリーニング ー「代理母」「卵子提供者」、そして「精子を提供する生物学的な父親になる人」の3人が対象となる検査のこと。基本的な問診や血液検査による感染症のチェックにくわえ、代理母は子宮の状態の確認など、卵子提供者は卵胞の数など、精子提供者は精子の数や質(運動量)などをチェックすることになる。全てのスクリーニングが終わった後、医学的に懸念材料が見つかった場合、ごくまれにではあるが代理母や卵子提供者の変更、マッチングのし直し場合もあるようだ。

医療保険について検討・再考 ー をするのもこのステージの仕事の一つである。基本的にアメリカでの医療行為は自由診療の下において行われるので、国民健康保険などではなく、プライベートの医療保険に代理母候補の方は入っていると思われる。そのプランがサロガシーにおける妊娠・出産の場合には適用されるかされないかが非常に重要であり、コーディネーターがそれをチェックした上で、必要とあらば追加の保険をかけたり、念のため(バックアップ)の保険をかけるよう、保険屋と相談することもできる。

 


3. サイクル調整期間

概要 ー このステージでは、クリニックがIVFのためのサイクルやスケジュールを準備する時期だ。サイクルとは何かというと、IVFのプロセスでは、体外受精させた胚を代理母の子宮に移植するわけだが、代理母はその月経周期に合わせ、投薬を行いホルモンのバランスを妊娠しやすい状態に整える時期がある。それらはもちろん母体の状態をベースに行われるため、こういった待機期間が発生することになる。

一回目の移植で胚の着床が確認でき、妊娠までにいたればそれが一回ですむが、一回目で着床しなかった場合、投薬をやめ母体のサイクルがくるのを再度待ち、二回目の移植に備えなければならない。人によっては何度も経験するステージとなる可能性がある。

この時期は、サロガシーエージェンシーではなく、主にIVFクリニックが主体となって、このプロセスの流れを把握していくことになる。クリニックでは、代理母の健康管理やホルモンバランスなどをチェックするため、スクリーニングを再度行う必要がでてくるかもしれない。また、このサイクル調整期間は、代理母と卵子提供者との間のタイミングの影響などにより、予想より長くかかる場合もあることを覚えておいたほうがいい。

 


4. 胚移植

概要 IVF(体外受精)が成功するといよいよその受精卵(胚 – embryo)を代理母の子宮に移植することとなる。そのため、IVFクリニックのフィジシャン(注²)が移植サイクルのスケジュールを、代理母、卵子提供者、IPに伝える。それは最初の投薬から採卵、受精卵(胚)の移植、そして移植後の妊娠検査までのタイムラインとなる。これらの施述が始まる前に、法的契約は最終的に全て同意されている必要がある。

Fresh or Frozen ー 胚移植には新鮮胚移植(Fresh Embryo Transfer)と凍結胚移植(Frozen Embryo Transfer)とあり、どちらを推奨されるかはクリニックによって違う。近年の冷凍技術の発達により、凍結胚移植の成功率は格段に上がり、妊娠の成功率はほぼ変わらないと、多くのIVFクリニックでは言われている。また凍結胚移植の場合、母体が一番妊娠しやすい日を狙って移植することができることもあり、むしろ成功率が高くなることもあると言われている。(注³)

妊娠検査 ー 胚移植のあと、代理母は3種類のベータテストという妊娠検査を受け、妊娠の状態をチェックすることが多いが、正式に妊娠が成功したと診断されるのは、妊娠6~7週目に実施される超音波診断で心拍が確認されたときだ。その後、妊娠時10週目でも同じく超音波検査を受ける。

 


5. 妊娠から出産まで

概要 ー 妊娠6~7週目に実施される超音波検査で心拍が確認されて以降、出産までの期間がここのステージにあたる。この間、エージェンシーの担当コーディネータと電話やメール、スカイプなどで連絡を取り合い、出産までの準備、主に法的手続きなどを行う期間ともなる。

IVFクリニックからOBGYNへの移行 ー 先述した通り、妊娠10週目の超音波検査で問題がみられなければ、IPが選んだIVFクリニックはそこで役目を終え、代理母は自分の産婦人科医(OBGYN/オブジン)に移ることになる。基本的に代理母自身が通う病院になるので彼女自身が地元で選ぶことになるが、僕らの場合、彼女がいろいろリサーチをしてくれた上で、僕らとも相談し決定した。

法的準備 妊娠の約20週目を過ぎたころから、さまざまな法的手続きの準備が行われる。主にどのようにIPの親権取得のプロセスを行うかが主な目的となる。これは代理母が住んでいる州の法律、IPの国籍や在住国、その他諸々の要素によって、そのプロセスは多岐にわたる。ケースによっては、出産前に必ず行わなければならない申請などもある。

渡米の準備 ー 僕らはエージェンシーから、出産予定日前に渡米することを勧められた。また、出産予定日通りに子どもが生まれるとは限らないので、航空券はオープンチケットをとり、いつ何があってもすぐ駆けつけられるようにする人が多いとも聞いた。そして、遅くとも出産から48時間以内には病院に駆けつけるようにしなければならないとも言われていた。

 


6. 産後期

概要 ー 長いサロガシーの旅も最終ステージとなり、そして、あらたに親としての新しい旅が始まるとき。病院であなたの子どもに出会い、大きな喜びとともに、夜に何度も起きなければならない新しい生活が始まるとき。また、この産後一ヶ月ほどの間に行わなければならないさまざまな手続きをするために、エージェンシーとの連絡を頻繁に行う時期ともなる。

法的手続き ー 主にIPの親権取得のための申請などをすることになる。またアメリカは生地主義がとられているので、アメリカで生まれた子はアメリカ国籍を自動的に取得することとなり、アメリカのパスポートを取得することとなる。基本的にはこれらの法的手続きにどれくらいかかるかは、そのケースにもよるが、3〜4週間の間に行われることが多いそうだ。裁判所の判断を仰ぐこともあり、その場合はそれ以上の時間がかかることもあ り、帰国前に全ての手続きが終わる場合やそうでない場合もある。

帰国 ー インターナショナルサロガシーの場合、空港での出国や入国の際、パスポートを含めさまざまな書類が必要となる可能性があるが、それが確実にそろった状態になるまで、エージェンシーとともにIPが自らチェックを行い、帰国となる。

 


まとめ

長くなってしまったが、これでもできるだけ簡略化したつもりだ。

これからサロガシーを考えている方の中で、これを読んでもまだいまいちつかめないという方も多いだろう。でも、これを今全部理解する必要はないし、心配することはない。僕自身もこの旅のはじめに説明を受けた際、わかったつもりで、今から振り返るとぜんぜん違う感じを想像していた気がする。

また、今回ここに書いたものは、とても基本的な概要に、僕自身の経験を少し足して書いているので、あなたがもしサロガシーの旅に出たとしたら、それとは少し違うことになるかもしれない。

第2章の再開時期についてはまだ未定ではあるが、準備ができしだい順次公開したいと思う。

 


 

注¹ OB/GYN オブジン = 産婦人科医:  (OB = obstetrician = 産科医、GYN = gynecologist = 婦人科医)

注² physician = フィジシャン = 医者

注³ 参考サイト Sher Fertility Clinicshttps://www.ccrmivf.com/,

つづきはこちら

”第2章 選択、決断、そして書類の嵐” まえがき

 


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