第4話 代理母出産について知っておくべき3つの言葉。

第4話 代理母出産について知っておくべき3つの言葉。

 


サロガシーで知っておくべき3つのキーワード

前回はLGBTが親になる4つの方法について調べたことをお話しした。

僕らの場合はその4つの中で、養子をとるかサロガシーをするかのどちらかが選択肢として残っていたのだが、そのどちらにするか決めるまでには、もう少しサロガシーのことについて知る必要があった。

もちろん、リカも僕もこれを調べた時点で全てを理解したというわけではなかったし、サロガシーを選ぶかも決めていなかった。実際にサロガシーの旅に出てみないと、わからないプロセスがいっぱいある。

しかし今日はこれからの旅で主要なキーワードになるであろう3つの言葉、

  • ファティリティ(不妊治療の)
  • IVF(体外受精)
  • サロガシー(代理母出産・代理懐胎)

について、少しお話ししていきたいと思う。

 


Fertility = ファティリティ = 不妊治療の

もともとの意味として、”(土地土壌が)肥沃[豊か]なこと, 豊饒” そして “多産; 繁[生]殖能力” という意味があり、正式にはfertility treatmet で不妊治療という意味だが、話の流れによってはfertilityのみで不妊治療のことを意味することもある。対義語として sterility(不妊)がある。

子どものことを考え始めたこの頃、不妊治療と言う言葉が自分たちゲイカップルにあてはまるのかがわからない、というか、しっくりこなかった気持ちも正直あった。しかし今では、

『愛し合っている異性間カップルが、自然に子どもができないからと不妊治療を受けられるのならば、なぜ愛し合っている同性間カップルは不妊治療を受けられないのだろう。』

と思うようになった。LGBTが不妊治療を受けることに対して、自然じゃないからと批判する方がいたら、ぜひ異性間カップルの不妊治療に対しても異議を唱えていただきたいと思う。それも自然じゃないじゃん、と言うなら、その理屈自体はまだ理解できる。

代理母出産は不妊治療の一環だということを意識することは、大切だ。なぜなら、あなたが異性を愛そうが同性を愛そうが、不妊治療は誰しもが平等に受けられるものなのだから。

その昔、輸血や開腹手術は、倫理や宗教的理由で禁止されていたことを思うと、LGBTが不妊治療を受けるという感覚も、そう遠くない将来、普通のことになると個人的には思っている。

 


 IVF (in vitro fertilization) = アイ・ヴィー・エフ = 体外受精

IVFとは生殖補助医療のひとつで、卵子を体内から取り出し体外で受精させることを指す。今ではほとんど使われない言葉だが、僕が子どものころ『試験管ベイビー』という言葉があった。”in vitro”というのはラテン語で『試験管内の』という意味。

『人工授精=IVFではない』 – 人工授精という言葉は体内で受精が行われる場合に使われる。よくレズビアンの方の妊娠方法で、提供を受けた精液を専用のスポイトやシリンジで膣から子宮に送り込み体内で受精させる、というのを主に人工授精と呼ぶ。

『授精』と『受精』の漢字の違いを英語で知ると、すこし分かりやすいかもしれない。

  • 授精/ insemination卵子に精子をひきあわせるという行為。上記のシリンジで精子を注入するその行為を、人工授精と呼ぶわけだ。(しかし異性間のセックスで中出ししたら自然授精、と呼ぶかは定かではない。)
  • 受精/ fertilization – 一般的に、精子と卵子が結合することを指す。体外受精では試験管またはシャーレの中で授精させ、精子と卵子を結合した受精卵ができるところまで見届けるので、こちらの言葉を使う。

追記(2016/09/17): 日本での体外受精の治療成績に関し、朝日新聞では次のように報道された。

2014年の体外受精の治療成績によると、この年の体外受精で生まれた子どもは4万7322人(累計43万1626人)で過去最高を更新、うち8割近い3万6595人(累計21万4194人)が凍結を経て生まれた。ほとんどは受精卵を凍結したケースで、卵子の段階で凍結したケースが16人いた。14年には全国で約100万人の赤ちゃんが誕生しており、21人に1人が体外受精で、27人に1人が凍結保存を経て生まれた計算になる。

(http://www.asahi.com/articles/ASJ9J22W5J9JUBQU001.html)


Surrogacy = サロガシー = 代理懐胎、代理母出産など

サロガシーは、子どもが欲しくてもなんらかの理由で自ら妊娠できない人が、代わりに妊娠してくれる代理母に依頼し、妊娠出産までを行ってもらうということだ。

疾病によって子宮がない、または切除した人や、子宮があっても身体の障がいによって子どもを妊娠・出産すると命に危険が及ぶ人、そして自ら妊娠することのできないゲイの男性にとっては最後の希望となる不妊治療だ。

その方法には大きく分けてふたつある。

  • トラディッショナル・サロガシー (Traditional Surrogacy)
  •  ジェステイショナル・サロガシー (Gestational Surrogacy)

このふたつの大きな違いは卵子の出どころだ。トラディショナル・サロガシーは代理母の卵子を使い、ジェステイショナル・サロガシーは代理母と卵子提供者が別の人物となる。

トラディショナル・サロガシーは人工授精型とも呼ばれ、代理母と卵子提供者が同一人物となるので、代理母と生まれてくる子どもの遺伝的なつながりができることになる。

このトラディショナル・サロガシーには利点がいくつかある。

サロガシーを行う場合、依頼者がその家族や親戚など血縁関係のある人に代理母を依頼し、同時に卵子提供者にもなってもらうことで、生まれてくる子どもとの遺伝的つながりを持つことができること。また体外受精(IVF)よりも母体への負担が軽い人工授精ができることも利点だ。

ゲイカップルが女性の家族や親類、友人に代理母を依頼をし、医療機関ではなく、自宅で人工授精を行う場合もあり、このトラディショナル・サロガシーに含まれる。その場合、かかる費用が大幅に安くなるのも事実だ。

ただ、いいことばかりではない。

代理母と卵子提供者が同一人物であることによって、子どもとのつながりや気持ちが強くなりすぎる可能性が高く、依頼した側への引き渡し拒否、代理母の心理的負担、家族間の関係不和などのトラブルになる可能性が高いと言われている。

 

一方、ジェステイショナル・サロガシーは体外受精型 (IVF型) とも呼ばれ、代理母と卵子提供者が別である。

そうすることで、生まれてくる子どもと代理母との遺伝的つながりを断ち、心理的なつながりを薄めることで、上記のようなトラブルのリスクを低くすることができる。

ただトラディショナル・サロガシーとは逆に、必ず体外受精 (IVF)のプロセスが必要となるため、代理母と卵子提供者両方への体への負担や、費用が高額になるという点がある。

最近では不妊治療クリニックで行われるほとんどの場合が、このジェステイショナル・サロガシーによって行われているということだ。

 


まとめ

ということでサロガシーに関してほんの少しだけ深く触れてみた。まとめるとこうなる。

  • サロガシーは不妊治療の一環である。
  • IVFとは 体外受精という意味で、体外で受精までを行い、受精卵を子宮に戻し妊娠を助ける生殖補助医療である。
  • サロガシーには大きくわけて次の二つの方法がある。
    • 人工授精型のトラディッショナル・サロガシー
    • 体外受精型(IVF型)のジェステイショナル・サロガシー

 

この先サロガシーの旅をどんどんご紹介していく上で、重要になっていく言葉たち。サロガシー入門編としてご理解いただけていたら幸いである。


つづきはこちら

第5話 ふたりのママの家族と出会って。


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[出典]

http://www.fertilityhelp.com/intended-parents/traditional-surrogacy

http://www.lajollaivf.com/fertility-treatments/surrogacy-san-diego/

https://en.wikipedia.org/wiki/Surrogacy

画像出典:  HMC Embryo by ZEISS Microscopy via Flickr, Licensed under CC BY-NC-ND 2.0