前回はロンドンで参加した家族について考えるアートワークショップに参加し、少しずつ家族というものについて深く考えるようになったことをお話しした。
そしてそれによって、家庭を築いていく気持ちが強くなっていった様子もお話しした。しかし、それだけではまだ親になるぞと決断するところまではいっていなかったと思う。
そんな躊躇が残る僕の背中を押したのが、そのワークショップで知り合ったS子さんだった。
親になるのは誰もが初体験、それはゲイもストレートも同じ
S子さんは日本出身でイギリス人の男性と結婚し、二人の子どもがいる。あのころ僕はまだ英語がそんなに喋れなかったのもあり、いろいろと助けてもらった。
そして一緒にものづくりを進める中、だんだんと仲良くさせてもらえるようになり、お互いの家に行き、いろんな話をするようになった。日本語で、ざっくばらんにお喋りできる人がいるのは、海外生活の中でちょっとしたオアシスのようだ。
ある日、S子さんのお宅に伺ってランチをご馳走になり、彼女の子どもとひとしきり遊んで、お茶をいただいている時のことだった。S子さんに聞かれた。
「子ども持つ予定とかないの?」
実はまだ最近考え始めたところなんです、と答えてその会話が始まった。S子さんは僕が子どもと遊ぶ姿を見て、僕の子ども好きを見抜き、それで聞いてみたといった感じだった。S子さんは明るく笑顔でこう言った。
「みっつんくんなら絶対いいパパになれるわよ〜」
しかし子どもと遊ぶのと、親として育てるのとはわけが違う。こうやって子どもと遊ぶのは好きだし、わりとどんな子どももなついてくれる。しかし、それは僕自身がまだ、子どもと同じレベルで遊んでいるからというだけだ。
「子ども欲しい気持ちはあるけど、自分自身がまだ子どもっぽくて親になる自信なんてないし、うちの場合、ゲイとして親になるってなかなか想像つかなくって。」
そう答えるとS子さんは言った。
「親になる自信なんて誰にもないわよ。私だってなかった。誰だって親になるというのは初めての経験なんだから。それはゲイもストレートも同じじゃない? 親のなり方は親になってから子どもに教わるものよ。」
ふっと気持ちが軽くなった気がした。
根底にあるみんな同じ人間じゃん?っていう想い。
そのときのS子さんの言葉は、シリアスすぎたり重すぎるわけでもなく、『1+1=2でしょ?』というテンションと同じように、当然のこととして語られていた。
そういった時、人は妙に納得してしまうものだ。それというのもS子さんの、人に対するオープンな性格と、彼女のそれまでの経験があったからだろう。
個人的なことなので詳しくは書けないが、彼女は医療従事者として、仕事でたくさんのゲイの人と接することが多かったという。
そしてたまたま夫の弟がゲイで、彼のカミングアウトの場にも居合わせたことがあるらしい。そんな風に一口にゲイと言ってもさまざまな境遇や人生を見てきた彼女からしたら、
「ゲイもストレートも結局みんな同じ人間じゃん?」
ということがベースにあるらしい。
S子さんのように、明るく自然に話をしてくれる方と出会えてラッキーだった。それに加え彼女は自らが親になった経験など、常に実体験を基にいつも意見を聞かせてくれる。
これが変に重たい相談みたいになってしまっていたら、僕の背中はそう簡単に押されなかっただろう。
S子さんはもうひとり子どもが欲しいと思っているらしく、「同級生にしようよ〜」などと言っている。言霊があるとしたら現実になるかもしれない。
LGBTペアレンツだけじゃなく、アライのストレートペアレンツもいる
『ママ友』のような、個人を群れのように集団化させてしまう言葉の使い方は好きではないが、子どもを持つ人間として、いろんなことを共有できる仲間がいるというのは心強い。
僕らの友達の中で、LGBTペアレンツはいないのだが、子どもを持つストレートの友人は増えていくばっかりだ。
LGBTペアレンツが少なく周りにいないことで、仲間がいないんじゃないかと思っていたが、なにも自分からストレートとLGBTの境界をがっちり線引きする必要がないように思えてきた。親が子を愛し育てていくということ、両者に違いはない。
また、子どもを育てるときは、ひとりじゃないんだと、さりげなくサポートしてくれたS子さんに感謝でいっぱいだ。アライのストレートペアレンツだっているのだ。
僕はこのワークショップに参加したことで、本当の意味での大切な家族のカタチを発見することができた。そしてそこで得た知識、経験、そして友人は、僕とリカの家族計画に於いてとても重要なものとなったし、これから先子どもが産まれたあとも大切にしていきたいと思っている。
僕らは子どもを持つことを決めてその準備をしている最中のカップルだけれど、すべてのカップルが子どもを持たなきゃいけないわけじゃないとも思う。
ただ、もし子どもを持ちたいと願っている人がいるのなら、精一杯応援したいし、僕が背中を押してもらったように、その人の背中を押せたらいいなと思っている。
画像出典: Family by Michael Verhoef via Flickr, Licensed under CC BY-NC-ND 2.0
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