前回の記事 “養子ではなくなぜ代理母出産を選んだか?” を考えていた同時期、僕らは複数の国のエージェンシーやクリニックのサイトをチェックし、代理母出産(サロガシー)について詳しく調べていた。国によって法律も違えば、金額もばらばらで、結構時間のかかる作業だった。なかなか国ごとの比較が見える情報はなかったからだ。
しかし翌年2014年、僕らが既にサロガシーのエージェンシーとの契約も済ませた年、世界ではサロガシーにまつわるニュースがいくつかあり、国際的な議論を引き起こすきっかけとなっていた。
例えば、日本人男性がタイで、代理母を通じ、確認できているだけで16人以上の子どもを作っていたという件や、同じくタイで代理母を通じて産まれた赤ん坊がダウン症だったことを理由に、依頼したオーストラリアの夫婦がその赤ん坊の引き取りを拒否したという件。
イギリス BBCでは、これらの件を機になかなか知ることのできない世界におけるサロガシーの状況をまとめていた。その記事は僕らがサロガシーについて調べていた後になってリリースされたものだったが、この記事がその前にあったら、相当楽だったであろうと思う。今日はそのBBCの記事の一部を参考にし、国別に比較していきたいと思う。
(なお、記事の引用部分は斜体で、僕個人の意見・見解などの補足は通常フォントで表示します。)
サロガシーは合法なのか?
サロガシーが合法か否かは、国によってまちまちだ。例えば、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ブルガリアなどの国ではサロガシーを全面禁止している。
一方、UKを含む、アイルランド、デンマークそしてベルギーなどでは、代理母に対してお金を支払わない場合、もしくは妥当な出費のみを支払う場合において認められている。つまり、代理母が報酬を得る、商業的サロガシーは禁止されている。
商業的サロガシーが認められている国として、アメリカ(州による)、インド、ロシア、そしてウクライナなどがある。サロガシーによって親になりたいと、これらの国に渡航する人たちもいる。しかし、オーストラリアの一部の州などは商業的サロガシーのために他の国に渡ることを禁止しているところもある。
サロガシーの準備・手配ができる国として、アメリカ、インド、タイ、ウクライナ、そしてロシアが渡航先として選ばれると専門家は言う。また、メキシコ、ネパール、ポーランド、ジョージアなどの国も、サロガシーができる。
国別、平均費用の比較
国際的なサロガシーに関するNPO、Families Through Surrogacyによる、各国別、かかる費用のおおよその平均は次のようになっている。
- アメリカ – $100,000(約1,200万円)
- インド – $47,350 (約568万円)
- タイ – $52,000 (約624万円)
- ウクライナ – $49,950 (約600万円)
- ジョージア – $49,950 (約600万円)
- メキシコ – $45,000 (約540万円)
(引用元のリンクに行ってみるとその内訳がみれるのだが、アメリカを例にとってみると、そこには代理母にかける医療保険や生命保険、渡航費などが含まれておらず、実際にはこれ以上の費用が必要となると思われる。)
【追記】2016年2月現在、Families Through Surrogacyのサイトでは情報が更新されており、BBCの記事とは違う金額になっている。全体的に費用が高くなっている傾向があるとともに、新しい情報ではタイが除外されているのが興味深い。
人々がそれぞれの国を選ぶ理由
どれだけの子どもがサロガシーを通じて産まれているかという統計はそんなに多くない、ほとんどの国が公式な統計をとっていないためだ。生殖や家族に関する問題を特に扱っている法律事務所Natalie Gamble Associatesの、弁護士Nicola Scott氏によると、事務所のクライアントの25%がサロガシーの渡航先として、安全であるという理由でアメリカを選んでいると話す。
「アメリカにはとても長いサロガシーの歴史があります。親になろうとする人たちがアメリカを選ぶ理由の一つに、多くの州でサロガシーをするための体制が強固に築きあげられていることがあげられます、カリフォルニアは特にそうですね。そのしっかりとした規制がが安全性に結びついていると考えられているようです。」
また同じくScott氏は話す。
「アメリカ以外の国を目指す人たちの多くの理由は、費用を低く抑えることができるからです。」
しかしそれらの多くの国で、”サロガシーは違法ではないが、サポートする体制がない” ということも彼女は付け加えた。例えば、今までタイではサロガシーに関するはっきりとした法律の整備がなかった。しかし現在サロガシーに関する法律の整備が進んでおり、タイの当局では現在、代理母は依頼者の血縁者に限ると発表している。
またインドでも同様に法整備が進んでおり、限定的なサロゲートになるかもれない。そうなると独身やゲイカップルなどへの門扉を閉ざすことになりそうだ、と、前出のスコット氏は話す。
(引用元のBBC記事は2014年当時のものであり、その後タイでは2015年に外国人への商業的サロガシーが禁止され、インドは代理出産に対する規制を2012年から強化しており、同性カップルや独身者が同国で代理出産を利用することを禁止、今年になって外国人への代理出産を認めないよう政府から指示がでたという。)
代理母のリスクについて考える。
International Surrogacy Arrangementsの著者で、EUと国際私法が専門のアバディーン大学教授であるPaul Beaumont氏は次の3点が確実に保証されていることが重要だと、強く主張する。
- 代理懐胎をする病院は厳密に統制(規制)されていること
- 代理母は十分な補償を受け、そして適切な健康管理とともに適切な同意が行われること
- 依頼者が、親になるために適しているかの考慮をされているかどうか
タイでのオーストラリアの夫婦の件のように、生まれてきた子どもが何か障害をもっていいた場合、依頼者がその育児を放棄し、分娩した代理母に残されてしまうというのが、規制・統制がなされていない場合に起こるリスクのひとつであり、それは多くの代理母についてまわる。また同教授は次の点も付け加えた。
女性が暴利のために代理母として働くことを余儀なくされるリスクがあるなど、代理懐胎は、利益のためだけの産業となり悪用される可能性もあり、またその搾取の確かな証拠をつかむのは難しいものだ。
(一部構成を変えています)
まとめと、サロガシーに関するここ数年の大きな変化
このようにサロガシーと一口にいっても、その実施されている国によって状況は様々である。まとめとして、
サロガシーは、
- 国によって、合法、違法、そして法整備が整っていない、もしくは全くない場合とある
- 費用はアメリカが群を抜いて高く、他の国はほぼ同じ
- アメリカが渡航先として選ばれるのは、法整備が整っていて安全性につながっていると考えられるから
- アメリカ以外の国が渡航先として選ばれるのは、費用が安く押さえられるから
- どの国を選んだとしても代理母のリスクや権利について、熟慮するべき
今回は法整備、金額、代理母のリスクに的を絞ってお話ししたが、他にも倫理面での課題、社会的認知度、宗教的側面などにおいて、複雑な要素が絡み合っている。
この記事を書くにあたって、2013年当時利用していたサイトなども改めて見直したりしていたのだが、この2年でサロガシーをとりまく環境は世界的に変化していると感じた。
2014年におこった前述の事件に関しては、生まれてきた子どものことを思うとたまらなくなる。しかし、この事件がサロガシー自体にネガティブな印象を与えただけでなく、このBBCの記事のように人々にサロガシーについて考えるきっかけを与えることになったことを、せめてもの救いだと思いたい。
画像出典: Pregnancy by Tatiana Vdb via Frickr, Licensed under CC BY 2.0
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