【質問箱】アメリカと他国での代理母の権利保障のちがいについて

【質問箱】アメリカと他国での代理母の権利保障のちがいについて

突然ですが、ツイッターで質問をいただきました。長くなってしまったので、メールにてお返事をしたのですが、みなさまにもシェアできればと思い、質問をいただいた遠藤さまのご了承をいただきこちらに転載させていただきます。(一部ブログ掲載用に編集しなおしています。)

 

遠藤さま、

あけましておめでとうございます。改めまして、みっつんと申します。僕は専門家でも法律家でもないですが、自分たちの経験がそのお役に立てればと思い、お声をかけさせていただきました。このブログも読んでいただいているようで、ありがとうございます。

ご質問は代理母の権利保障の国別の違いについてということですが、ちょうど先月サロガシーの国別比較というのをリリースしたばかりなので、世界的な背景としてまずはそちらをご覧いただければと思います。2014年のイギリスBBC(英文)の記事をもとに、まとめたものです。

ただ、ご質問は権利保障についてのことということで、それについては以下にまとめました。アメリカ以外の国での代理母の権利保障の状況については、特に詳しいわけではないのですが、僕たちが調べたり経験したことから、知っている限りのことでお答えできればと思います。

 


まず、サロガシーにおいての代理母の権利保障というと、大きなところで、1) 人権、2) 親権 が思い浮かぶと思います。

1) 人権の保障に関しては、母体が産む機械のように扱われ、金銭による人体搾取が行われていないかということが非常に重要です。それを防ぐためには、

“代理母は十分な補償を受け、そして適切な健康管理とともに適切な同意が行われること”

だと、EU及び国際私法が専門のアバディーン大学教授であるPaul Beaumont氏は、前述のイギリスBBCの取材日本語訳はこちら)で応じています。

ここでご質問のアメリカと他国との権利保障のちがいになるわけですが、まずはアメリカではどのように代理母の人権を守るようにしているかを(実際はかなり複雑なのですが!) なるべく簡単にご説明します。これはあくまで僕たちが選んだエージェンシーの場合になるので、アメリカどこでもという保証はできませんが、ご了承ください。

商業的サロガシーが認められているアメリカの一部の州では、エージェンシーが代理母を募集する場合、そのエージェンシーが独自に定めている募集資格をホームページなどに載せています。僕たちが調べたいくつかのエージェンシーでは、その中に必ず “公的な経済的保護を受けていないこと” という項目が設けられており、いわゆる生活保護をうけているなど、経済的に自立できていない人は代理母になることができません。

また代理母を希望する人は、社会福祉士やサイコロジストなどによるスクリーニングなどもパスする必要があり、なぜ代理母になろうと思ったか、またサロガシーのプロセスについて(親権を放棄しなければならない)など、詳しい説明と精査が行われます。

その後、依頼する側と代理母の間で同意書を交わすことになるのですが、その交渉には双方に弁護士を立てて、補償額を含めた交渉を行い、お金をちらつかせ依頼側の言い分のみで同意をさせたり、十分でない補償額で同意をさせたりすることを防ぎます。

また健康管理については、エージェンシーが代理母の保険加入状況を事前に把握し、それにより、依頼者が彼女の保険をカバーするのかしないかなど、サロガシーのプロセスに入る前に取り決め、その後クリニックと連携をとり、代理母の状況を常に把握し彼女らの健康をサポートしています。もちろん、プログラムが始まってからも、毎月最低で一回は社会福祉士からのコンタクトがあり、彼女をサポートします。また、もちろん彼女からもサポートチームにいつでもアクセスできるようになっていて、精神的に不安なことがあれば相談できるようになっていると、聞いています。

これにより、

  • お金に困窮している人が、お金のためだけに代理母になることを防ぎ、
  • 各種スクリーニングにより、代理母自身がサロガシーについて正しく理解しているかをチェックし、
  • 弁護士を立て交渉を行うことにより、強制的な同意が行われないようにし、代理母自身の理解の上で決断と同意を行い、
  • クリニックとの連携により、代理母の健康管理(身体的・精神的)をする

ことが、できていると、僕らは考えています。僕らがエージェンシーを選ぶ際には、代理母の人権が守られているのかというのを確認するのは重要な項目のひとつでしたので、代理母の待遇に関しては最初の2回の無料の相談会で質問していました。上記に記したものはその相談会で確認できたものと、プログラムに入ってからわかったものと両方含まれています。

その他の国での状況についてですが、実態がつかめないというのが実態のようです。先述のPaul Beaumont氏も、その取材に対し、代理母のリスクについてこう答えています。

“女性が暴利のために代理母として働くことを余儀なくされるリスクがあるなど、(中略) その搾取の確かな証拠をつかむのは難しいものだ。”

実際、僕らがどこの国でサロガシーができるかを調べていた際、アメリカ以外で代理母の人権がどれだけ守られているかを確認できた国はなかったことを覚えています。人体搾取につながるようなサロガシーかどうか証拠はないものの、代理母を守る保障の証拠もなかったということです。

しかしそれと同時に、アメリカ以外の国で行われたサロガシーにより、母子ともに無事に出産に至ったケースも既にたくさんある思います。サロガシーにより生まれてきた子どもたちが、その生まれた場所によって偏見の目にさらされることは、あってはならないと思います。

* * *

次に、2) 代理母の親権についてですが、ここからはジェステイショナルサロガシーの場合に限ってお話します。(サロガシーの種類についてはこちらをご覧ください)

商業的サロガシーが認められているアメリカの一部の州を除き、ほとんどの国で、子どもを実際に分娩した母親の親権が保障されていることが多いようです。

例えば、僕らが住んでいるイギリスでは、利他的サロガシー(金銭の授受を伴わない、または最低限の補償のみは行える代理母出産)をすることができるのですが、実際に妊娠し分娩した代理母が、産まれた子どもを手放さなかった場合、いくら同意書など書面に双方の同意(代理母の親権の放棄など)が示されているからといって裁判を起こしたとしても、最終的には代理母の親権が認められる(依頼者は親権を得られない)というのが一般的な認識です。

逆に、商業的サロガシーが認められているアメリカの一部の州では、代理母の親権放棄が同意書に含まれていれば、いくら代理母が子どもを渡さないといっても、依頼者の親権が認められ、子どもは引き渡されるということになります。ちなみにこれは、代理母が住んでいる州、ひいてはその子が産まれた場所の州法に則り、判断されます。

 


長くなってしまいましたが、これでも、できるだけ簡潔にしたつもりです。代理母の自己決定権なども絡む問題ですが、それはまた、かなり長くなってしまうので、別の機会にお話しできればと思います。

サロガシーのプロセスは本当にやってみないとわからない複雑なことが多く、それに対しひとつひとつ真摯に向き合わなければならなかったし、これからもしていこうと思っています。

僕らのサロガシーの旅は、まだその途中ではありますが、実際にそれを経験してみてわかったことも多くありました。日本での情報は、噂のレベルの域をでないいい加減なものも目にします。また、実際に見たことも聞いたことも調べたこともない人が、想像のみでつぶやいているものも目にします。もちろん、知識のある方が真摯に反対される場合もありそれはとても重要なことですが、稀なことのように思います。

ここ数日で、代理母出産/サロガシーについての話題があがっているようですが、遠藤さまのようにまずは “知りたい”と思うきっかけにつながってくれる方が増えることであればと喜んでいます。それと同時に、拙速で未熟な議論が、サロガシーに限らず、子どもを持ちたいと思う未来のゲイペアレンツの方たちの夢を壊さないことを、切に願っています。

 

みっつん