過去二回にわたり、アメリカのサロガシーエージェンシーがロンドンで開いたふたつの相談会についてお話ししたが、それと時期を同じくして、僕らはある書類に記入しはじめていた。
その書類は大きくわけるとふたつのパートになっていた。
前半は自己紹介のような自分たちのプロファイル作成のためのもので、先週もかるくお伝えした通り、1回目と2回目の相談会の間に書いて提出していたもの、後半は具体的なサロガシーのプランについてのことで、2回目の相談会の前に目を通しておき、相談会の後にに記入し提出するものだった。
その書類はインテンディッド・ペアレンツ・プロファイル(以下IPプロファイル)と呼ばれるもの。今日はその書類に記入する際にいろいろ考えたりしたことをお伝えしたい。
インテンディッド・ペアレンツとは?
インテンディッド・ペアレンツ(IP)というと、これから親になろうとしている人、とか未来の親とでも訳せばいいのだろうか。intended というのは、意図する/予定するという意味、parentsは親。
代理母出産(サロガシー)のプロセスを通し、依頼者のことを指す言葉である。あなたがサロガシーをしようと思ってエージェンシーに依頼をすると、あなたはこう呼ばれることになる。
ということで、このブログでは今後インテンディッド・ペアレンツを IP と表記する。
このインテンディッド・ペアレンツ・プロファイル(以下IPプロファイル)は、主なものとして次のような質問が並んでいる。。
- IPのプロフィール(名前/年齢/職業/住所/言語など)とバックグラウンド(出身地、原家族構成、学歴、職業など)
- 二人の関係性(カップルの場合)と健康について
- 出産後の見通しについて
- サロガシーのプランについての見解・意向
- 出生前診断と堕胎、減胎についての見解について
- 自己紹介と親になる夢について
ここからはそれぞれのパートについて、ひとつずつ簡単にお話ししていくが、特に最後の3項目については、追って詳しくご紹介していく。
IPプロファイル、主な質問項目
IPのプロフィールとバックグラウンドを書くところでは、名前、年齢、職業、住所、使用言語などの基本情報や、原家族(生まれ育った家族)の家族構成を書いていくだけだ。ちなみに英語でのコミュニケーションが難しい場合など通訳が必要な場合は、その通訳者の名前を書く欄もここにあった。
そして二人の関係性(カップルの場合)と健康についてでは、結婚しているか、パートナーシップを結んでいるか、同居して何年になるかなどを書いていく。また健康状態、主に精神疾患の有無や、感染症などの病気の有無や、またリスクのある性交渉を過去6ヶ月以内にしていないか、違法ドラッグを使用していないかなどの質問もある。
またなぜ、今、子どもを持ちたいと思うようになったのか、どれくらいの期間サロガシーについて検討しているかについての質問もある。僕らはには関係なかったが、男女間のカップル向けの質問として、不妊治療を過去にどのくらいの期間、どのような種類のものをしてきたか記入する欄もある。
あと、ここではお互いに、どこが相手の長所かとか、相手のどこに惹かれたのかなどを書く欄もあり、少し照れくさかったが、改めて文字にして書くのも悪くないなって思ったりした。
出産後の見通しについては、共働きの場合どのように子どもを育てていくかや、周りからのサポートが受けられるか、子どもが大きくなったときにどのように伝えるか、また子どもが代理母や卵子提供者に会いたいと言ったらどうするかについても答えていく。この質問に関しては、リカとそれまでに話したこともあったが、こういう設問があることで、改めてふたりで話し合うきっかけになった。
サロガシーのプロセスについての見解・意向
ここでは、今後のサロガシーの旅について、どのように具体的な見解を持っているかを示していくことになる。
- 卵子提供者の必要の有無、
- ゲイカップルの場合どちらが精子提供者になるか
- 代理母とはどれぐらいのペースでコンタクトをとりたいか
- 卵子提供者とはどれぐらいのペースでコンタクトをとりたいか
- 双子を望むか
などの質問があるのだが、その中の一つに、『代理母に求める一番大切な要素とは?』という質問がある。ここで僕らは次のように答えていた。
”代理母になるという事を決めることに関し、自ら選択をし、自分の気持ちの整理ができている人。またストレスなく気持ちに余裕があり、自分の生活に対し経済的安定と責任感がある人。”
これは僕らが答えたその一部だ。あなたがもしサロガシーを行うとしたら、違う要素かもしれない。あなたなら、どのような代理母を求めるのだろうか?
出生前診断における堕胎、減胎について
出生前診断における堕胎、減胎については、その検査において、胎児が二分脊椎症や遺伝子疾患などの障がいを持っているのがわかった場合やダウン症だった場合などに、堕胎を希望するかということや、多胎妊娠の場合に母体の安全を守るための減胎に同意するかということについての考えを予めここで示すことになる。
こういった選択的妊娠中絶はさまざまな議論もあり、是非がいまだに問われていることではある。またサロガシーに限ったはなしではないのだが、ここではサロガシーのプロセスにおいて、大切なことに絞ってお話ししたい。
まず知っておかなければならないこととして、アメリカでは、妊娠を終わらせるかどうかの最終決定の権利は代理母にあるということだ。
そしてそれを理解した上で、IPがすべてのプロセスが始まる前に、選択的妊娠中絶ついて予めしっかりと考え、どのような見解を持っておくかということだ。
代理母になるのを希望する女性の中でも、出生前診断の結果を受け、堕胎や減胎に同意する人もいれば、そうでない人もいるそうだ。サロガシーのプロセスの中で大事になるのは、それを依頼するIPと依頼される代理母の考え方が一致しているということだ。
あなたが出生前診断はしたくない、また妊娠中に子どもに障がいが見つかった場合でも堕胎や減胎はしたくないというのなら、それと同じ考えを持つ代理母をエージェンシーはさがしてくれるだろう。
実際には、代理母とIPの間でのちに交わす同意書が、正式な取り決めとなるが、このIPプロファイルではその準備段階として、IPの見解をエージェンシーに示しておき、代理母とマッチングする際に利用される。
自己紹介と親になる夢について
一番最後に自己紹介と親になる夢について書く欄がある。これは将来出会う卵子提供者や、代理母に向けてのものだ。また自分たちの写真を5枚以上添付するよう書いてあり、それは代理母とのマッチングの際に利用されるとのことだった。
僕らは次のようなことを軸に据え、一ページほど書いていった。
- どんな家族に生まれ育ったか
- 自分たちの趣味や、好きなこと
- 僕らが出会ってから今までの生活
- どんな家族を築いていきたいか
- なぜ、親になりたいと思ったのか
- どんな風に子育てをしていきたいか
この自己紹介は代理母とのマッチングの際に使われるということなのだが、それよりも、これをふたりで書いている時間が楽しかったのを覚えている。今までの自分たちの歩みを振り返りながら、将来の家族計画を立てるのは幸せな時間だった。
記入を終え、深まった話し合いと理解
このIPプロファイルに記入するために、それまで思ってもいなかったことを考えることができた。また考えたことがあっても、文章にして書くことで、改めて決意として自分自身で受け止めることができたと思う。
そして、記入をしていく度に、将来のことについてリカとゆっくり話し合うことができた。家族計画を二人の間で共有するきっかけを与えてくれたと感じている。
また、サロガシーの旅ではたくさんの人の助けを借りながら進めていくものだ。依頼する側として、IPは自分たちの希望や思いを確かにしておくとともに、それに関わるたくさんの人ともそれを共有していくものなんだなと感じていた。
それまでは、ネットでいろんな情報を仕入れ、考えるばかりだった日々。このIPプロファイルへの記入を境に、親になるために実際に動きだしているんだという、実感が少しずつ湧いてきたのだった。
インテンディッド・ペアレンツ – 親になる候補生になる第一歩になった気がした。
つづきはこちら
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