2014年1月。僕らはバスに乗って、ホルボーン駅近くのホテルに向かっていた。とっても寒いけれど、天気のいい日だった。緊張のせいなのか寒さのせいなのか、肩がずっと上がりっぱなしだったのを覚えている。
今日はいよいよサロガシーで子どもを授かったふたりパパと会うのだ。
以前から調べていたアメリカのエージェンシーのひとつが、ロンドンで相談会を開くということで、メールで申し込みをすませ、今日がやってきたというわけだ。
今回の相談会はイギリスに住んでいる人を対象に、アメリカのエージェンシーが開いたもの。申し込みのメールのあと受け取った確認のメールには、”堅苦しいものではなく、そのエージェンシーを使い子どもを授かったゲイカップルが実際に来て、彼らの経験を聞いたりできる、カジュアルな集まり” だということだった。そのゲイカップルもイギリス在住だという。
今日はその相談会の様子をお話ししたいと思う。
目の前に現れた、ふたりパパ。
ホテルに着くと僕らは地下の会議室に案内された。そこにいたのは、確認のメール返信してくれたB氏。握手をし挨拶をすると、僕らの緊張をほぐすように気さくに話しかけてくれた。
すでにそこには、僕らの他にもう一組のゲイカップルがいた。見た感じは僕らより10歳ほど年上のようだ。挨拶はしたが、お互いに緊張している感じがした。
B氏一家はロンドンから少し離れたところに住んでいるらしく、その前日から、家族全員でロンドンにやってきてそのホテルに一晩泊まっていたのだそうだ。しばらくすると部屋にいた彼の旦那さんと子どもたちも、その会議室にはいってきた。
B氏のパートナーのM氏がベビーカーを押し、小さな男の子の手をひいている。4歳だというその男の子は、すこし恥ずかしそうにM氏に隠れながらこちらを覗いていた。そしてそのベビーカーにはまだ寝起きですこしご機嫌斜めな女の子が座っていた。まだ1歳になるかならないかという頃だったと思う。
男の子は少しずつその場の雰囲気になれてくると、机の下に潜ったり、僕らのほうをチラチラ見るようになり、ふたりのパパの間を行ったり来たりしていた。
この子が代理母を通じて生まれた子。
そしてここにいるのがその子のふたりのパパ。
その姿を自分たちに重ね合わせずにはいられなかった。というか、どんどんとそのイメージが広がってしまう。
自分たちの子どもが生まれ、一緒に生活をしていくその姿。
子どもをだっこしている自分….子どもをの手をひいて歩くリカ….ぐずるこどもをふたりであやす姿….。
レズビアンマザーズにはじめて会った時とは全然違う感覚。ゲイカップルという自分たちに近い状況なだけに、ふたりパパというイメージのトレースが容易だったのかもしれない。
気軽な雰囲気のQ&A
挨拶、自己紹介、他愛もない世間話から始まり、自然とサロガシーの話になっていった。僕らはいろいろ質問することをリストにして書いていったのだが、もう一組のカップルの片方がそれ以上に下調べをしていたようで、マシンガンのように質問を並べていた。お陰でこちらはその恩恵をご相伴できるという感じだった。
何回ほどアメリカとイギリスを往復したかとか、クリニックは紹介してもらえるが最終的には自分たちでリサーチして決めるとか、出産の時はどのタイミングでアメリカに飛んだのか、代理母との関係はうまくいっているのか、子どもが生まれてからの子育てについて、ゲイペアレンツとしてのご近所づきあいのことまで話は及んだ。
また、医療の技術や施術の信頼性についてアメリカでのサロガシーは信頼がおけるとのことを、自身が医者であるM氏の口から聞けたことは安心できる材料になった。彼はまた、生殖補助医療という分野において、歴史が一番古く、その点での心配はなかったとも語った。
そして、彼らのIVF(体外受精)のプロセスを聞けたのも、その流れをイメージするのに役にたった。受精や着床、妊娠の成功率は、精子と卵子の年齢、また病院によっても違いがあるなど、IVFの基本的な流れを知ることができたのは、大きかった。
ちなみに、そういったちょっと込み入った話をしている最中も、子どもが「パパ〜」と呼べばそこに行って、ちょっと相手をして、またもともと話していた話題に戻るといった感じ。ときには子どもをだっこしながら、いろんな話を聞かせてくれた。その雰囲気は非常に和やかでリラックスしたものだった。
一人目サロガシー、二人目養子
和やかな雰囲気で、彼らのサロガシーの旅の話を聞いていたのだが、もうひとつ興味深かったのは、彼らが代理母を通じて授かったのは一人目の男の子のみで、二人目の女の子は養子として引き取ったということだった。
もともとふたりは子どもが最低ふたりは欲しいと願っていたそうだが、一人目が生まれた後、その大変なプロセスをもう一度繰り返すことに気が進まなかったようだ。
もちろん子どもが生まれてきたときのあの感動をもってすれば、それまでの苦労が全部吹っ飛んでしまったということだが、それぐらいサロガシーの行程というのは、簡単じゃないよ、楽じゃないよということを教えてくれた。
また、このカップルの場合、すでに一人の子どもを授かりきちんと育てている実績があることで、養子の審査も随分通りやすかったこともひとつの理由のようだった。
(以前、養子をとるというオプションについてお話ししたが、その審査の厳しさについてはこちらでお伝えしている。第3話1. 養子縁組 (アダプション)、第9話 養子の審査の厳しさと、子どもとの相性 )
とにかく二人目は養子をとることにしたそうだが、彼らはラッキーだったようだ。というのも、たいていの場合イギリスで養子を取るとなると、赤ん坊の状態で引き取ることは稀で、3歳以降の場合が多いそうだ。
もちろんそれ自体は何も悪いことではないのだが、自我が形成されたあとの子どもとのマッチングは難しいことが多いらしい。
しかし彼らの場合、生後1週間ほどでその女の子を引き取ったということだった。彼女の実母はまだ10代と若く、妊娠がわかった時点で自分の家族と相談し、出産前には養子に渡す手続きを始めていたらしい。
僕らはすでにサロガシーか養子かの選択は決まっていたが、それでもこの時点で、サロガシーと養子と両方の経験がある人から話が聞けたのは有意義だった。しかも、彼らはそのエージェンシーの代表として来ているにもかかわらず、僕らに無理にサロガシーを勧めるわけでもなく、養子というオプションもあるよというのを教えてくれたのだ。
そのリラックスした雰囲気というのは、本当に良かった。商業的サロガシーのエージェントとしては顧客を取りたいところだろうが、依頼者がきちんと考え、自ら選択することを尊重してくれる、そんなエージェンシーの態度にとても好感が持てたエピソードでもあった。
ワクワクした帰り道、先輩パパ’sと会って。
帰り道、ロンドンの赤い二階建てバスの上の階、一番前に座り見えた景色とともに思い出されるのは、沸沸とわいてくる期待や希望だったと思う。
実際に存在する、ふたりパパとその子どもたち。彼らと接して、テンションが上がっていたのは確実だった。リカとふたりで顔を見合わせた瞬間の光景もはっきり覚えている。言葉にはできない高揚感みたいなものをお互いに感じていた。
その興奮の一番の理由は、サロガシーについてもっと知ることができたこともあるが、それよりなにより、実際のふたりパパと会えたこと、そしてその子どもたちと触れ合えたこと。実際にお話ししたり、遊んだり、お話しして、やっぱり子どもほしい、って確信をもてたこと。
数日後、M氏から嬉しいメールが届いた。来てくれてありがとうっていうお礼とともに、僕らが帰ったあとのことが書かれていた。
それによると、『下の子はみっつんをかなり気に入ったようだ』と書かれており、彼女は僕が帰ってしまうとそのドアを見つめ、指をさし、ぐずりだしたそうだ。そんなことを聞いては、僕の親性(父性や母性)がどんどんくすぐられるというものだ。
そしてそのメールには翌月の3月、今度はもう少し詳しいことを専門の弁護士がきて説明してくれる2回目の相談会があるということも付け加えられていた。興味があったら連絡してくれということで、リカと僕は参加することを伝えたのだった。
*画像は本話とは関係なく、イメージです。
画像出典: gay dads by strollerdos via Flickr, Licensed under CC BY-NC 2.0
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