前回の相談会では、実際に代理母を通じ子どもを授かったふたりぱぱに会い、彼らの実体験をじかに聞くことができた。
そしてその翌月、2回目の相談会に参加した。その相談会では、アメリカからそのエージェンシーに所属する弁護士が実際に来て、個別に相談にのってくれるということだった。
どんなことについて話したか、僕らの個人的な情報やなにをどう選択したかなど、詳しくお話しできないこともある。もどかしい書き方になってしまう部分もあるかもしれないけれど、それをご了承いただいた上で、読んでいただけたらと思う。
IPプロファイルを基に話は始まる
ロンドン市内のとあるホテルの一室に通されると、アメリカから渡英したという弁護士のD氏と握手を交わし、挨拶をした。かるい談笑のあと、早速サロガシーの話に入る。
実はこの2回目の相談会の前に、エージェンシーに提出していた書類があった。そのフォームはインテンディッド・ペアレンツ・プロファイル(IPプロファイル)と呼ばれるもので、自分たちのことを記入し、エージェンシーに知らせるフォームのことだ。(これについては来週改めてお話しする。)
このIPプロファイルを基に話は勧められるのだが、D氏は僕らの関係性を中心にいろいろなことを聞いてきた。
僕らの東京で出会いから、結婚、共にロンドンに引っ越すことを決めたこと、元の家族との関係、なぜ今こどもを持とうという決断をしたのか、なぜサロガシーという方法を選んだのか、もっと突っ込んだところでいうと、いくら貯金があるのか、持ち家があるのかといったことまで聞かれた。また僕ら自身がサロガシーのことをどこまで理解しているのかということも聞かれた。
あとで思えば、あれはある種の面接で、こいつら本当に親になる気はあんのか? といったことを見極めるプロセスだったのかもしれない。ただ、実際は特別かしこまった雰囲気でもなく聞かれたことにただ答えるという感じだった気がする。
ともあれ、D氏は丁寧にサロガシーのプロセスの流れについて説明をしてくれた。そしてその流れでたくさんあるオプションについての話になっていったのだった。
複雑なプログラムは、オプションが多岐にわたるから
はじめての方へでも書いているのだが、このサロガシーエージェンシーが最初に渡してくれたハンドブックの一番初めの段落に書かれていた言葉、こんなブログをやっておきながら、この言葉を言ってしまうのはなんだか矛盾のようなのだが、これは大切なこと。
“ふたつとして同じサロガシーの旅はない – あなたがネットで読んだり人から聞いたことのある話は、必ずしもあなたのそれと同じにはならない”
これの本当の意味が少しずつわかってきた。D氏はサロガシーのプログラムの違いと、それに伴う費用の違いを説明してくれるのだが、はっきりいって脳みそが吹っ飛ぶんじゃないかっていうくらい複雑に感じた。
サロガシーのプロセスは人によって千差万別。依頼するひとの状況によっていろいろとプロセスが変わり、それによって費用も大きく変化する。例えばつぎのような項目だ。
- インターナショナルサロガシーかアメリカ国内に住んでいるか?
- 卵子提供は必要かどうか?
- IVFクリニックの紹介が必要か?
- 双子を望むかどうか?
- 受精卵の移植は一回ごと費用を払うプランか、3回までトライできるプランか?
などがある。これはあくまで、僕らが選んだエージェンシーの場合なので、他のエージェンシーは違うプログラムを設定しているかもしれない。参考程度にとどめていただけたらと思う。
またD氏は、そのプログラムの違いを説明するのに沿って、かかる費用の説明もしてくれた。まずは、その費用の高さに度肝を抜かれたということは、言っておくべきかもしれない。もちろんそのD氏の前では、平静を装ってはいたが。
ちなみに、エージェンシーがこういった表やホームページなどで提示している費用というのは、どこも目安でしかないということは、以前質問箱でも書いた。その理由として、サロガシーによる不妊治療は画一的に値段設定ができないからだ。(詳しくはこちらを参照)
D氏は、この場合ならこの金額、こうだったらこの金額、僕らの場合だったらこれぐらいになると予想される、という感じで、細かに質問に答えてくれた。
親権や子どもの国籍について聞いてみた。
今回の相談会では、僕らが調べてもなかなかわからないこと、特に法的手続きに関わることを聞こうと思っていた。例えば子どもが無事に生まれてきた場合、親権や子どもの国籍などがどうなるかといったこと。
僕らの理想としては、子どもがスウェーデンと日本の国籍の両方を持てるようにと思っていた。しかしゲイカップルの結婚が認められていない日本の法律で、僕はいまだに独身扱いだ。その状況の中どうなってしまうのか不安ではあった。そのことをD氏に伝えると、まずは基本的なことから、説明を始めてくれた。
子どもの国籍については、基本的にアメリカで産まれることになり、自動的にアメリカ国籍を取得することになる。
そしてインターナショナル・サロガシーの場合、IP(インテンディッド・ペアレンツ/親になる人)と同じパスポートを取得するための手伝いはしてくれるとのことだった。
そこで、異性・同性カップル問わず、日本人からの依頼を今までに受けたことがあるか聞いてみた。その答えは「知っている限りNOだが、もう一度他の同僚に確認してみる」ということだった。一方、スウェーデン人からの依頼は今までも多いので、心配する必要はないということだった。
そしてD氏はこうも付け加えた。僕らの場合はすでに結婚していて、ふたりの関係が公的に確認しやすく、UKに住んでいるということであれば、その出身国がどこであれ、ペアレンタルオーダー(親権取得)のプロセスができるし、そのケース(UK在住カップル)はたくさん経験がある、とのことだった。
ただ、うちのケースの場合、スウェーデン人と日本人のカップルで、イギリスに住んでいて、子どもはアメリカで産まれるという4カ国にまたがるかなり稀なケースになるので、さまざまな過去のケースと比べ、方法を探っていくことになるだろうということだった。
また、彼の説明を聞いて一番大切だと感じたのは、『法的に登録された親がいない子どもになる』など、子どもが宙ぶらりんの立場にならないということ。
日本人のケースの経験がないということではっきりしない部分もありはしたが、僕らの場合、そういうことにはならないということが確認できたのは安心材料のひとつだった。
代理母について聞いてみた
またそれとは別にこちらから聞きたかった質問もあった。代理母のことだ。
僕らがサロガシーを行うのにアメリカを選んだ一番の理由、それは代理母の安全やリスクが考慮されているということだった。その部分、実際にはどうなのか、直接話を聞いてみたいと思っていた。
いったいどんな人が代理母になりたいと申し込みにくるのだろう。そしてこのエージェンシーはどのように彼女らを募集し選んでいるのだろう。
D氏が語ったのはこういうようなことだった。
「代理母になりたいと思う人はさまざまなきっかけがあるようだけれど、基本的に子どもができない人のために役にたちたいという思いがある人。代理母になるためには、子どもを一人以上自ら産み育てている必要があるけれど、その経験が素晴らしいと自ら体験し、それを望んでもできない人のためのお手伝いがしたいと考えているようだ。また、自分ではもうこれ以上子どもを持つ予定はないけれど、妊娠している状態が好きで、自分自身がそれによって幸福な気持ちになれるから、それを得ながら人を助けることができると思い、代理母になりたいと手を挙げる人もいる。」
また、彼女らは経済的に自立しているのかという質問に対しては、
「経済的に自立していることは代理母になるための必須要件だ。その審査は必ず行われる」と答え、それに加え、「代理母の子ども(年齢による)やパートナーの家族、職場がサロガシーに対しての理解があるかどうかも確認される。妊娠中、職場や家族など、まわりからのサポートが受けられる環境でなければならない。また、パートナーとともに社会福祉士によるスクリーニング(適性検査)、心理学上の検査が行われ、それにパスした人のみが依頼者とのマッチングプロセスに進むことができるようになっている。」
ということだった。正直なところほとんどそのエージェンシーのホームページに書かれていることではあったが、直接言葉としても聞けたことで安心できたし、また、僕たちは代理母の権利保障についていいかげんに考えてはいないんだ、ということを相手に示すことができたのではないかと、考えている。
最後に
脳みそが頭蓋骨のなかいっぱいに膨らんだような感覚に襲われながら、相談会は終わった。あまりの情報の多さに吹き飛ばされそうになったことを覚えている。今日1日で全て理解するのは諦めた。無理だ。
まずは、聞きたいことは聞いた。メモはとった。とにかく少しずつ時間をかけて、これらを実際のプログラムに入る前に理解しておかなければならないんだということを受け止めるので精一杯だった。
D氏はその日話した内容に関してさらにさまざまな資料をあとでメールで送ってくれると言い、エージェンシーとの契約書にサインをするまでは、料金もかからないので、なにか質問があったら、電話でもメールでもskypeでもいいから連絡してくれれば答えてくれると言ってくれた。
前回の相談会でふたりぱぱに会ったときの帰り道は、夢がどんどん具現化していく感覚でものすごく幸せな気分だったが、今回の相談会ではしっかりと現実に直面しなければという気持ちにさせられた。かといって、その目の前にある取り組まなければならない現実は、僕らの動き出した夢を妨げるものとは思わなかった。
D氏は契約前にしっかり時間をかけて考えてくれればいいとも言ってくれた。
うん、まずはこのぱんぱんに膨らんだ脳みそを落ち着かせ、地に足をつけ、ひとつひとつの選択に向き合い、前に進んでいきたいと思ったのだった。
画像出典: Meeting Room by PortoBay MICE, Share via Flickr, licensed under CC BY-NC 2.0
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