第8話 子どものこと、家族への伝え方三ヶ条。(スウェーデン編)

第8話 子どものこと、家族への伝え方三ヶ条。(スウェーデン編)


リカと子どもを持つことを考え始めて1年以上が経った。どうやったらできるか、どこでできるかを調べたりして、二人の間でいろんな話し合いもしてきた。そんなときリカがそろそろ家族に相談しようかと言い始めた。

ストレートのカップルだったら『そろそろ子作り始めます』とか言うはずないのだろうが、いくらLGBTに寛容なスウェーデンと言えども、子どもを持つLGBTの人たちはそこまで多くない。

突然、『子どもができましたー』と言っても驚いてしまうだろう。特にサロガシーという実態が見えにくい方法で子どもを授かろうというのだ。ということで、まずはリカの家族に伝えることにした。

最終的にはみんな理解が早かったのだが、そのとき僕らが実際に心がけていたことがあるのだが、今日はそれをお話ししようと思う。

 


1. 一番伝えやすい人を探す。

僕らはロンドンに引越してから、距離が近くなったこともあり、夏と冬の年二回、スウェーデンのリカの両親が住む実家に遊びに行っている。リカには妹と弟がいて、弟は実家の近くに住んでいるが、妹はスウェーデン国内だが遠く離れた街に住んでいる。だから、いつもみんな時期を合わせて帰省するようにしている。

2013年の夏は、夏至が少し過ぎた6月の終わりから7月にかけて2週間ほど滞在していた。その出発前、サロガシーのことを誰に最初に言おうかということはふたりの中で決まっていた。それはリカの妹だった。

リカが自分がゲイだと家族にカミングアウトしたとき、初めに言ったのも妹だったという。彼が当時19歳、妹14歳。そのときの妹の反応、「かっこいいじゃん!」と言ったそうだ。ゲイの兄を持ったことが嬉しかったらしい。

その同じ年、リカは母親にも伝え、母親は父親に伝え、いつのまにか『リカは男の人が好きなのね』という感じになっていたらしい。

閑話休題。2013年の夏休み、リカの妹は二人目を妊娠中だった。子どもを持つ喜びを一番実感している最中の人だった。ちなみに僕らが結婚するときに、リカが男の人と結婚するということを伝えるのに、一番ハードルの高いおばあちゃんに、ゆっくりと説明してくれたのも彼女だった。

家族が集まっていた時期だから、みんながいる場で一気に伝えることもできたかもしれないが、外堀を埋めるように理解者・仲間を少しずつ増やしていく方が現実的だった。

しかもまだ、具体的なプロセスが始まる前の段階だったから、ちょっと様子をうかがうように、まずは一番伝えやすい人から伝えるというのが、功を奏した気がする。

 


2. 散歩しながら。

スウェーデンに行くと、リカの実家から車で2時間ほどのところにある、祖父母の住んでいた家によく行く。リカの両親の出身の村である。

母方のおばあちゃんは健在だが、それ以外の祖父母は亡くなっていて、今は誰も住んでいない義父の生家は、親戚中でサマーハウスとして利用している。その田舎の小さな村は、白樺の森と湖と、大きな滝のある自然豊かな場所だ。

そこでの滞在中、リカが妹夫婦を散歩に誘った。北スウェーデンはこの時期白夜と呼ばれるように、一日中空は明るく気持ちのいい気候だ。妹は子どもをベビーカーに乗せ、静かな村の中を僕ら四人で歩き始めた。

上の写真はちょうどその話をした散歩中に撮ったもの。左からリカ、リカの妹、妹の夫だ。どうやら、これもリカの作戦だったようだ。

15分くらい歩いたところでリカが僕らが子どもを持とうと思っていることを切り出した。妹は『あらそう、驚いた』と言いながらも、どこか予想もしていたのだろうか、そんなに驚いた様子ではなかったと思う。

あまりに自然な導入だったので誰も気構えることもなく、スムースに話は進んでいった。しかしこれがもし、家の中の食卓だったらどうだろう。顔をつきあわせた会議のようになって、難しい話になってしまうような気がする。

この時のことを思い出すと、緊張したとか、そういう気持ちはなかった。清々しい空気と景色の中、4人がほぼ一列にならんで、前に向かって一緒に、同じ方向へと進んでいるという感覚が蘇ってくる。

一体、それがどれだけ好影響を与えたか、そんな科学的証明は僕にはできないが、散歩をしながら話をするというのは、ちょっと言いにくいことも、言いやすくなるような気がしている。

 


3. 一度で全部わかってもらえると期待しない。

なんだかここまで書いていると、すべて何も障害がなかったかのように聞こえるかもしれないが、僕とリカの間でひとつ心配があった。

リカの妹が昔から、ゲイもストレートも平等だと考えていて、オープンな人だというのはわかっていた。しかしサロガシーについてはどうだろう?

というのも、彼女は若い頃からフェミニズムに深く傾倒していて、仕事や大学での勉強もそれに関わるものだった。女性の権利や、性差別の払拭などにとても力を入れている人なのだ。

代理母出産と聞くと、いい印象だけではなく、国によっては、女性を産む機械のように扱い、彼女らの健康や権利を損なう場合があるというのが、たまにニュースに出たりする。

案の定、彼女からの質問はサロゲートマザー(代理母)の待遇についてのことに集中していた。僕らが子どもを持つことについては、とても喜んでくれているようだが、そこをなおざりにはできないぞという雰囲気が漂っていた。

ただ、僕らもそこの部分についてはおろそかにしてきたつもりはない。だから、はじめから全てのことが理解してもらえると思わずに、自分たちが時間をかけて調べたり考えてきたことを、何度でもシェアしていけたらと思っていた。

彼女の意見は、自分たちだけでは考えが及ばないようなことについての指摘など、女性目線、特に、出産を経験したことのある女性としての意見だった。そしてそれを聞けたことは重要だったなと思う。

結局、この時点で妹夫婦は僕らの考えを理解し、応援してくれると言ってくれた。そして、リカのお母さんにはもうちょっと後になってから伝えたのだが、やはり外を散歩しながら伝えたりと、同じ方法を使い、うまくいった。

きっと僕らは恵まれているケースだと思う。しかし、これから僕らがゲイペアレンツとなり、社会の中で子どもと生きていくにあたって、まわりの全ての人にすぐ理解してもらえるとは限らない。そのときに、一度で全部わかってもらえると思わずに、少しずつ時間をかけて、僕らの存在を証明していけたらなと思っている。

と、まあ偉そうに書いているが、まだ自分の日本の家族には子どもを持つことを伝えていない。日本の家族にはどう言おうか、同じ方法で通用するのか。確実にスウェーデンの家族に言うよりは緊張するし、ハードルが高い。またその時が来たらお話ししたいと思う。

 


つづきはこちら

第9話 ゲイパパの選択 – 養子ではなくなぜ代理母出産を選んだか?

 


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